こねこのケンシロウ〔3〕

検査の結果、病気がないことが解ったため、その日は夜中ケージから出して、自由にさせることにしました。


この数日前、「猫のダヤン」のタロットカードを購入していた私は、ベッドに潜って、布団をかぶって、電気スタンドを一つだけつけて、カードをごそごそするのが日課になっていました。
今、自分でも思います。おい、どこの黒魔術師だ。と。


これは話を遡りますと、その昔、私の大学の近くに絵本専門の本屋があって、その一角に、「猫のダヤン」のコーナーがあったのです。
そこでこの、ダヤンのタロットカードを見つけた私は、当時、タロット占いには興味はなかったのですが、カードが綺麗で欲しくて、でも、貧乏学生だったため、1,500円に若干躊躇したのでした。
そう母に言うと、
「うんにゃもー、1,500円くらい出してあげるがー!」
と言って、1,500円くれたわけですが、グダグダしてるうちに、この絵本屋が無くなってしまったのでした。

ということを、大学卒業してだいぶ経ってから母に言うと、
「じゃあ、1,500円ガメただけね!?」
と、軽く詐欺師になっていたことがバレたので、その1,500円を本来の用途どおりに使うべく、ちゃんと楽◎ブックスで注文した、その数日後がこの頃だったというわけです。


という、プール金消化タロットで遊んでいたら、こねこが布団の中に入ってきました。
暴れん坊こねこは、なぜかこのときは非常におとなしく、私の腕にちいさな両手をかけて、カードをじーっと真剣なまなざしで見つめていました。
と思ったら彼は、ベシ! とタロットを一枚取りました。
引いたのは、「吊るされた男」。「献身」という意味があります。
そうか、私は君のおうち探しに頑張った、とお認めいただけたという意味か?

そういえば前の晩に、よし、この子の行く先を占ってみようと一枚引いて出たカードは、「運命の輪」の正位置でした。
「幸運!」の意味があるカードです。



そろそろ寝るか、と、ベッドの隣に置いてある椅子の上に、ふかふかの膝掛けを用意し、湯たんぽを包んで、寝床を作ってあげてこねこをくるみ、電気を消しました。
すると人恋しかったのか、甘えん坊なのか、こねこは私の布団の中に潜り込んできました。
あまりに小さいので、夜中につぶしてしまわないかという心配はありましたが、猫がおさまる形に腕を固定して、中に入れてあげることにしました。


あのメールの感じからして、もう大丈夫。
明日から君は、君を王子様として迎えてくれるおうちで暮らせるよ。




日曜日、朝。
新しい飼い主候補さんがやってきます。
「オイ、起きんか。もらってくれる人が来るんでしょう……って、うんにゃも、この子猫!」
私を起こしにきた両親が、私を見下ろして笑いました。
私の首の上でこねこが寝ていました。
「これだけ懐いたら、もうあげきらないんじゃないの?」
「ミギャー!」
両親に向かって、私の首の上の子猫が元気いっぱい返事をしました。 
なぜか声だけは、「みー」とか「みゅー」とか鳴く、「かわいいこねこちゃん」らしくならなかったなあ。



大きなキャンピングカーで、新しい飼い主候補がやってきました。
メールをくれたのは、中学一年生のミサキちゃん。メガネをかけて、髪をふたつ結びにしています。中学生時代の私と少し似ていました。ルナちゃんという妹も一緒です。

車が大きすぎてうちの車庫には入らなかったため、お父さんが車を近くに停めにいっている間、庭でコキチを見せながら、姉妹とお話しをしました。
「それにしても、よく、あんなサイトを知ってたねぇ」
「前からお父さんと、猫が飼いたいって言ってて、ブリーダーとかも見てみたんですけど、やり取りとかがちょっとあやしい感じだったので。お母さんが、『ここは悪質だ。』って。 そしたらお父さんが、『こういうのもあるよ。』って、『ペットのおうち』を教えてくれたんです。で、あの投稿を見つけて、お父さんに相談しながらメールを打ちました」


そのうち、お父さんが車を停めてやってきました。
「気に入ったら連れて帰る」という話だったはずですが、手にはおみやげのケーキを持っていました。
猫をもらって頂くのはうちの方なのに、と慌てた母は、彼らの帰り際、クリスマス用に買っていた「シュトーレン」をお土産に渡しました。ちなみにこのシュトーレン、改めて買い直して食べたところ、結構クセが強くて、外国味が好きな私にはおいしかったけど、父母には不評だったため、幼い姉妹には迷惑なだけだった可能性があり、母は非常に心配していました。彼女たちの舌に合ったかどうかは神のみぞ知る。


さて、いよいよ、こねことご対面です。
「わあー、ちっちゃい! 可愛い!」
妹のルナちゃんが目を輝かせました。写真の印象より小さかったようです。
こねこは突然の三人の来客に緊張して、猫が猫をかぶった状態になりました。
「今は緊張してるけどね~、よく遊ぶよ~」
「ホント!?」
ルナちゃんが大きな目をさらに大きく開いて、確かめるようにこちらを見つめました。


三人とも、すっかり子猫に夢中です。
「可愛いー! すっごく可愛い!」
「お母さんが、トイレ砂を買ってきなさいって言ってたから、お父さん、帰りにお店に寄ってね?」
はしゃぐ姉妹に、パパは抜け駆けをして、
「ほら、見てごらん。お父さんが抱っこすると、落ち着いたぞ」
わが子と対等に張り合って、こねこを自分のものにしようとしていました。


話を聞くと、お父さんの実家がそもそも動物好きだったそうです。
「オヤジが何でも飼う人でして……猫も犬も、にわとりやクジャクがいたこともありましたよ」
だんだん慣れてきた子猫は、猫をかぶるのをやめて、部屋を走り回っており、すっかり姉妹をめろめろにしていました。


もう、大丈夫だ。確信はありましたが、一応、規約通り、誓約書を取り交わすことにしました。
「じゃあ、これは、お姉ちゃんが書きなさい。ちゃんと責任もって育てるために」
と、お父さんに促されたお姉ちゃんが、誓約書にサインをしました。
身分証代わりの生徒手帳を預かって、私は免許証をスキャン。
誓約書を完成させて、二通、お互いに保管することにしました。


「では、本当にありがとうございました」
「いえ、こちらこそ、本当に助かりました、ありがとうございます」
お父さんの大きい手にがっちりと大切に抱っこされ、子猫は我が家から、新しいお城へ移り住んでいきました。




空になったケージを見て、
「病気もなかったんだから、飼っても良かったんじゃない?」
と言うと、母は、
「いやいや! もらわれてよかったよ。次の譲渡会じゃ、さらに大きくなってるだろうし」
と、慌てて返しました。
「まぁでも、あの子猫が来て、気付いてしまったんだよ、今までダンのことを子猫だと思ってたけど、『あれ、ダン、意外とでかいな』って」
「そうなのよね、さらに小さいのが来ると……どうしてもそっちが可愛くなりがちでしょ。ダンが王子様の座から落ちるのはイヤだったのよ」
「うちだと、愛情をセーブしながら可愛がるってことになるからね。だからよかった。あのおうちだったら、あの子もナンバーワン王子で可愛がってもらえるし、今日からアイドルだし、ダンもうちでのアイドルの座を守れたよ」


簡易トイレを捨て、ちゅうちゅう吸われた毛布と湯たんぽを洗い、ケージをたたみ。
大変だったけど、ちょっと楽しかった時間も、一緒にしまいました。



三人が帰って一時間くらいした頃、ミサキちゃんからメールが届きました。



「今日はありがとうございました。今、落ち着いてよく寝ています。

 大切に育てます。        ミサキ」




(エピローグへ、つづく)


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