「ベルサイユのばら」と、身を焦がす蛍

先日、少々お褒め申したNHKを今日はいきなり「ディスる」というのは気が引けますし、何より、
「一つの作品の話をするのに、他作品を引き合いに出して持ち上げる」
というのは、あまり品がよくない。


そう思いつつも、その対比があまりに鮮烈だったので、話題として採用させて頂きますが、
とりあえず、今期の朝ドラ「半分、青い。」は、ひと月ほど前に、脱落しました。


最初は楽しく見てたんです。
でも途中から「あれ?」「どうなん?」が繰り返され、
最終的にトドメを刺してくれたのが、準主役ポジションであろう、萩尾律(演・佐藤健)。


だって、この萩尾氏、
「オレ、恋人が出来たから」と、幼なじみの主人公を自分から遠ざけ(実質、振って)、
その幼なじみに5年ぶりに駅で偶然再会したら、何のノリか知らんが、突発的にプロポーズ。
そして主人公に「ムリだ」と断られたら、「そうだよな」と即座に諦め、数年後、
「あのとき振られてショックだった。」
「ぼくはあのとき、鈴愛をつかまえたと思った。」
などと寝言をほざいて、ポッと出の「誰だおまえ的な新キャラ」と結婚しておる。


その一連の流れを目の当たりにしたとき、私はテレビに向かって、こう叫びました。


お前は、マジでアンドレを見習えよ!!


と。


だってあなた、アンドレは、ず―――っとオスカル一筋で、いつもオスカルのために命がけで、
「片目くらい、いつでもお前のためにくれてやるさ」なんて言っちゃうし、
恋敵に冷めたショコラをぶちまけちゃうし、
オスカルのことが大好きすぎて、襲いそうになっちゃうし、
身分差の恋に絶望して、勝手にワインに毒盛って心中図るし、
ホント、よくオスカル様、アンドレを愛し返してくれたなって思うよね!!


……じゃなくて、

「萩尾律、お前はホント、アンドレ大先生のつめの垢を煎じて飲め!」

って思います。


*


そんなわけで、つい先月、生まれて初めて、不朽の名作「ベルサイユのばら」を読みました。


正直、「ガラスの仮面」も、「トーマの心臓」もピンと来なかった私は、
「古い少女漫画は読みにくいのかも……」
という思い込みに長らく支配されておりました。


しかし、それを見事にひっくり返してくれたのが、当作品。そして、
「二次元キャラクターへのトキメキなど、とっくに卒業してしまったわ…」
と一抹の寂しさを感じていた私に、
「もう萌えなんてしないなんて、いわないよ絶対」
と歌わせてくれたアンドレ。
私は彼に、心から感謝しています。



私のような若輩者が「ベルばら」を語ろうなど、片腹痛いわと思われるかもしれませんが、
「ベルばら」、とにかく、めちゃくちゃ面白かったです。
もちろん、アントワネットの豪遊だけが財政逼迫の原因ではないだろうに、とか、
フランス革命の描き方が少々疑問を残すなど、諸々、思うところは無くはなかったですが、
そんなものは自分で勉強でもすればいいわ! とぶっとばすこのエネルギー。
とにかく、心の掴み方が尋常じゃない。
輝きすぎる瞳も、ともすればクサすぎるはずの台詞も、全てが美しい古典として映るのです。


などとぐだぐだ書いていますが、


とにかく、読後の最初の感想は、ただ、ただ「アンドレ」。
まずはアンドレ。
しばらくは口を開けば「あんどれ」の四文字しか出てこなかった。(嘘です。)



最初、モブ顔だったのにね。もりもり出世しちゃって。
3人の主人公といわれたうちの一人のフェルゼンよりもずっと存在感あったよね。
絶対、作者の気が変わったんだよ、あれ。
黒髪ってだけで、ただでさえイケポテンシャルは高いのに、
断髪して美貌が覚醒しちゃったら、あんたもう。


私はしばらく、アンドレの恋が叶った瞬間を反芻するだけで、
みぞおちがキュウウッと苦しくなるといった症状を繰り返していました。


最初のヒットは、パリで馬車が襲撃され、フェルゼンにオスカル様が思わず言った、

「わたしのアンドレ……!」

私のみぞおちはこのとき、クリティカルダメージを受けて大変なことになったという。


そして続く、オスカル様の愛の告白。

「…愛して…い…る…」

コミックス買ってまだ半月くらいだけど、ここだけたぶん50回くらい読み返してる。
私はアンドレのために号泣しました。心で。



“鳴く蝉よりも 鳴かぬ蛍が身を焦がす”
私、ほんと、このパターンに弱いんですって。
創り物語ではいくら、「叶わぬ熱い想い」が感動的に肯定されても、
現実でそんなものを抱えてる子がいれば、頼んでもないのに
「諦めなはれ」「次いこ、次!」
のアドバイスが宅配される。
そしてその荷物を受け取り、
「そうだ、私、現実を見よう…」
と、血のにじむような努力をして頷こうとし、一人泣き濡れた人も多いのでは。
私は経験者です。


でもそんな苦しくも熱い想いを味わえるのは、やっぱり生きていればこそ。


神の愛にむくいる術ももたないほど小さな存在ではあるけれど…
自己の真実のみにしたがい

一瞬たりとも悔いなくあたえられた生をいきた

人間としてそれ以上の喜びがあるだろうか

愛し… 憎み… 泣き…


オスカル様の最後のこの言葉は、物語に限らず、現実でだって同じですよね。


*


絵と言葉の素晴らしさ、衛兵隊が可愛いこと、
アントワネットが魅力的なあまり、最期があまりに悲劇的すぎることなど、
諸々言及したいこともございますが、なにより最も強調したかったのは、やっぱり、
アンドレとオスカルの情熱でしたので、私のベルばら感想はひとまず、
二人へのラブレターとして、締めさせていただこうと思います。


出会えてよかった。素晴らしい漫画でした。
100%、満足です。


* * *


余談ですが、この、幼なじみを陰で支え、叶わぬ想いを必死で抑えこむ男の子、

そして、自分の本当の愛になかなか気付かない女の子、
「赤毛のアン」の、アンとギルバートに重なるものがありました。


アンドレと同じく、幼なじみ(小学校時代)から始まり、
アボンリー小学校の教職を譲るという献身を働き、
時が来るまでは『友達』の立ち場に留まることを徹底し、
ようやく愛を伝えども、彼女の恋愛偏差値の低さゆえに振られ、避けられ、
彼女が別の男に惹かれるのを絶望に打ちひしがれながら、指をくわえてみているしかなく、
その果てにようやく幸福を手に入れた、ギルバート・ブライス。


6巻、7巻で、何度、「ギルバート……よかったね……!」と号泣したか解らない。心で。