「めぞん一刻」と、男の子のプライド

古い漫画ってテンポに馴染みがなかったり、

台詞が今では考えられないほどにくさかったりして、

なかなか読み進められないことがあります。


けれど、それも結局「作品による」ということを教えてくれたのが

この作品と、のちに出会う「ベルばら」でした。


ですので、もし、「タッチ」を古い漫画だからと敬遠してる方がいらしったら、

「そんなバカな思い込みはやめて、とりあえず今すぐに読みなさい!」

と言いたいです。

「上杉達也」を超えるカッコいい男には、なかなか今も出会えていません。

あ、フィクションの中での話です。



さて、そんなあだち充の漫画の主人公が、大方、

「やれば出来る系のイケメン」

なのに対し(ただし「みゆき」の真人さんは除く)、

めぞん一刻の主人公・五代くんは、

「ダメ主人公」の草分け的存在、かもしれない。

けれど、そんな五代くんの終盤にかけての愛おしさといったらなかったです。

そして何と言っても「五代くん就職浪人」あたりからは、なかなかに他人事でなく、

私は非常に胸が苦しく、ぜーぜーしながら読んでました。



ヒロインの響子さんは、

アニメでは島本須美さん(ナウシカ・クラリス・しょくぱんまん)が演じてる、

ということもあって、おしとやかな淑女を想定してたんですが、


いやあーーー何が何が!!


「シティーハンター」の香ちゃんといい勝負の、理不尽な焼きもち焼きの、

一言で言えば、見事な「めんどくっっっっさい女」っぷりでした。


おかげで私は、響子さんが大好きになりました。


想定していたような淑女じゃ、大して好きじゃなかったと思います。

喜怒哀楽がハッキリしてる面倒臭い女子、いいですね。実に可愛い。魅力的。



この漫画で、最も論争を呼んでいるらしいのが、

「なんで響子さんは、条件が格段によくて、性格もよくて、

非の打ち所がない三鷹さんを振って、五代くんを選んだんだ」というところらしいけど、

私はそれについては、全く疑問に思いません。


むしろ、なぜそんな愚問をみんなが発するのか、そっちの方が分からない、

の、は、私のセクシュアリティが関係しているかもしれませんが、その話はまたいずれ。



なお、この漫画を読んでた頃、

ちょうどディズニーの「アラジン」をめちゃくちゃ久しぶりに見ていたのですが、

この映画、物語の中盤で、

アラジンが一つ目の願いで王子になって、

ジャスミンに会いにいって、

ホールニューワールドを歌った後、

ジャスミンにカマかけられて、市場で出会った青年だとばれますよね。


そこでアラジンは、

「自分は本当は王子なんだ、アラジンは仮の姿なんだ」

なんていうごまかし方をしてしまう。私はそれを見ながら、

「ジャスミンは王子じゃない君を蔑んだりしないのに……君が君だから、好きなのに……」

と、もどかしく思ったものです。



社会的地位に対する見栄とかプライドって、女性が想像するのを大きく超えて、

男性にとっては大切なことなのだろう、と思います。



この漫画は職場の先輩に貸してもらったのですが、先輩には、この後、

なぜか、「セカンドバージン」のDVDも見せられました。

セカンドバージンは、作品としては、


「起業と社会活動拡大を不倫と同時進行しつつ、

しかもきちんと離婚話を進めようとするメンズ、不倫男として出来過ぎでは」


「普通、会社が伸び盛りだったら、そっちに集中したいから

嫁との話し合いなんて、なあなあに延ばすものでは」


「そもそも『セカンドバージン』ってタイトルの割に、

ヒロイン、駆け引きがうま過ぎでは」


……などなど、個人的にはちょっとツッコミどころ満載だったんですが、

あの、「落ちるとこまで落ちたメンズの心情」の描写は本当に見られてよかったです。



……仕事がうまくいかない。

そういうとき、女性の存在は、逆に彼らを苦しめることもあるのか、なんて。

高橋留美子先生は女性ですけど、このあたり、

男性読者は深く感情移入して読んでたんじゃないかと、勝手に想像します。どうでしょう。

それは、「男性にかけられた呪縛」がようやく言葉として共有されるようになった今でも、

まだまだ根強く残っていると思います。



カッコいいから好きとか、

地位があるから好きとか、

そういう気持ちを持つことが出来たら、いっそ楽だよねえ、と思う。



そして逆に、


ダメだからこそ可愛いとか、

見守ってきたから情が湧いたとか、

あるいは優しいところがいいとか、そういう具体的な良さがあるからいい、


……ってことでもない。



なんだか、やっぱり人を好きになる感情って、自分の意志から生まれるわけではない、

何か『見えない糸の繋がり』を感じて生まれるものだと思ってるから、

響子さんが、五代くんを選んだのには、違和感なんてなかったのです。


ダメ主人公で、時には閉じこもることもあったけれども、

五代君は「最後のところで逃げ隠れしなかった」……というのは

もちろん、少し漫画的でもある気もしたけど、

一方で、そこがやっぱり五代くんの最も好感を持てる部分だった、とも思う。


現実のメンズって、とんずらするじゃないですか、成功するまでは。

待たされるくらいなら、弱音吐いてくれた方がいいのに、

自分で解決するまで、だんまりをして相手を苦しめる。



ともあれ、

たくさんいる登場人物、どの人もみんな幸せになれて、よかった。

作者が、人物を愛して描いてるんだなぁと思えて、よかった。

あと、マッケンロー(犬)が可愛くてよかった。